Qちゃんが風邪を引くと喉をやられる、声がカスカスになって出なくなるのだ。
仕事で使う声のパワーを残しておくために 家ではできるだけ声を出さないように過ごすのだ。
「また、始まったの? ソファーなんかで寝るからよ」と2枚も布団をかぶってソファーで横になっている「声が出ないQちゃん」を苛める。
Qちゃんは、そんな私の言葉でもニコニコしている。声が出ないのをいいことに、あれよ、これよと指差してコミニケーションをはかる。赤ん坊のように甘えているのだ。
「これ、ほしいの?」床にあるティッシュ箱を持ち上げると、大袈裟に首を上下に振ってニッコリする。
「なに? 足が冷えるから靴下を持ってこいって?」うん、うんと合図するQちゃん。「まったく、 そんなこと自分でしてよ」と心の中でいいながら渋々と寝室のクローゼットの中からQちゃんの厚手の黒いソックスを捜す。
あんまりこき使うから意地悪をして「どれなの、これ? それとも、あれ?」とQちゃんが指差す方向と反対に置いてあるものを態と聞く。
そのたびにQちゃんはしかめっ面になって大袈裟に首を左右に振る。
これでもか、これでもかと違う物を私が選ぶので、 終いには声にならない声で「そこにある計算機、、」とひ弱な声でいうQちゃん。
「それなら、最初から云ってくれればいいじゃない」と少し私は苛々する。いつものお決まりパターンだ。
我が家ではQちゃんが体調を崩すとスタミナスープを食べさせるのが定番だが、冷蔵庫にはチキンがない。 それにここ一週間ほどインドカレーが食べたくてムズムズしている。 今朝は大蒜をタップリ入れてポークカレーを作ろう。Qちゃんの喉にスパイシーな刺激物はいけないかなと10秒ほどシンクの前で考えたが、自分の食欲には勝てなかった。
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「Qちゃん、大蒜たっぷりのポークカレーを作ったけど食べる? スパイシーなものは喉によくないんじゃないの? 」台所越しから声の出ないQちゃんに聞く。
返答はない、期待もしていない。ただ声の出ないQちゃんに聞いているだけだ。
意地悪をしてもう1度台所から大声で聞く「食べるの? それとも食べないの? 」
居間にいくと、Qちゃんが大袈裟に目を大きくして上下にゆっくりと頭を何度も何度も振っている。「食べる」というサインだ。
Qちゃんと自分のカレーを皿に盛ってQちゃんの隣でインドカレーをむさぼった。1週間も待っていたのだ、このカレー。旨いの一言。
Qちゃんと私はその旨さで首を上下に何度も何度も大袈裟に振った。