夕食の後の散歩。今日のコースはTrader Joe's まで足をのばしてみることにした。
ドライフルーツ、スペルトパン、ミルク。 それに少しの野菜もお買い得だから買っちゃった。
Qちゃんのバッグにそれらを入れるとパンパンになってしまった。 残りのポテトチップスは私が手で抱えることにした。
散歩をしている人間を車の助手席から覗くと「健康だな」とつい感心してしまう。
だから散歩している私を見るとそのように感心してくれているのかなと自意識してしまう。
だがヘルシーなはずの人間が横腹にポテトチップスを抱えて信号待をしている姿は矛盾していてなんとも恥ずかしい。
そんなこと誰も気に止めることはないのだろうが。
信号が青に変わりコンクリートの高速道路の下を越えると薄暗い空が目の前に広がった。
赤い満月がぽこっと街を照らしている。
帰路を急そいでいたQちゃんの足取りが急に止まった。
どうしたの?
「満月だね」とQちゃんはしみじみと月を見上げている。
歩道を過ぎ去る車もだんだんと疎らになりみんな誰かが待つ家へと急いでいる。
その隣で二人はちょっとばかりの月見をたしなむ。
Qちゃんと私は絶えまなく進む「横の時間」から少しの間だけエスケープして過去にも未来にも進むことのないこの場限りの瞬間「縦の時間」を楽しんでいた。
Qちゃんはさらに続けて「兎が見えるかい? ほら、あの部分が兎の耳であの部分が胴体だ」と赤い満月に浮かぶ白い点々を指差して説明している。
月で兎が餅をついているというのはよく聞く。しかし今夜の満月はどうしても兎が住んでいるようには見えない。
そう告げるとQちゃんはポケットからペンを取り出して私が抱えていたポテトチップスに彼の想像する「月で餅をつく兎の絵」を描き出した。「この部分が兎の身体で、この部分が餅つきの臼だろ。 ほら、こうして見ると兎が月で餅をついているように見えるだろ?」キョトンと月を見上げる私をQちゃんは路上でギュッと抱きしめた。
Qちゃんは私の旦那さんであるが未だにこうして彼の肌に触れると恥しいというドキドキした感情を抱いてしまう。
、、、どうかな? 月で兎が餅をつく。それは日本でのお話でアメリカでは関係ないんじゃないの?
ロマンテックになれればいいのだろうが、私にはどうしてもロマンテックという形容詞が不似合いな気がしてアヤフヤにしてしまう。
Qちゃんもそんな私に慣れてしまった。
「は、何だって?」と聞く気もない生半可な声でそういうと、Qちゃんはまたテクテクと前を向いて歩き出している。
私はその後をひたすら追う。
アパートの間近に来た。私はQちゃんの後を追う。
突発的にQちゃんがくるっと振り返る。
「このポテトチップスに釣られて君がいそいそと僕のアパートについて来ていると皆が思ってたら可笑しいね」
そういうと手にしていたポテトチップスをザックザックと上下に振り「さあ、僕の白熊ちゃん。スナックだよ、こっちへおいで」とからかってみせる。
そこで失礼ね!と頬を膨らませばいいのだろうが、お調子者の私はついここで「ガルウウウッ!」と口からヨレヨレと舌を垂らして見せるからQちゃんをますますつけあがらせるのだろう。
晩ご飯: イエローチキンタイカレー
サラダ
Qちゃん、白熊ちゃんがアパートまでのこのことついて来たんだからポテトチップスを食わせろって唸ってるよ。
「晩ご飯を食べたばっかりじゃないか!」
でも平気みたいよ。このポテトチップスは特別なんですって。「REDUCED GUILT (気にすんな)」だもん。