朝蜘蛛を見ると私は反応する。
朝蜘蛛を見ると縁起が良いと子供の頃に教えられたからだ。
母によると朝蜘蛛は小さいものでなければいけない、又は細い手足の蜘蛛でなければいけないといっていたように思う。今朝の朝蜘蛛は小さかった。 どんな縁起をもたらしてくれるのだろうか。
その日、東京の姉千寛ちゃんから「9ヵ月に入る」とメール連絡が届く。
お腹の赤ちゃんの様子や名前の選択、神奈川の姉美保ちゃんとのプチランチ、妊婦千寛ちゃんの食事事情(鉄分不足など)も書かれていた。
どうやら母子共に順調なようだ。
9ヵ月の妊婦千寛ちゃんの写真が送られてきた。写真を見るとますますタレントの千秋さんに似ている。
茶色で丸顔で目がズングリな「狸顔」の私と違って、千寛ちゃんは色白で細顔で目が切れている「狐顔」だ。
そんなことはどうでもいいんだけれど、赤ちゃんが大きくなったら暇潰しにパソコンを開いて読めるように「叔母さん姉妹の記録」として残しておこう。
メールの内容から赤ちゃんの男女の名前候補がすでに挙がっているのがうかがえる。
なかなか洒落たお名前でいうことはない。
ちなみに建前なのかどうか知らないが「⑨と⑦の意見も聞かせてね」と書いてある。
千寛ちゃんのメールではいつもQちゃんを英語の「Q」ではなくて数字の「9」で呼ぶ。 そしてたいそうご丁寧に丸で囲んで「⑨」と書いてくるのだ。妹の私も同じで「⑦」である。
その夜帰宅したQちゃんを捕まえて赤ちゃんの名前候補について彼の意見を聞いてみる。
Qちゃんも千寛ちゃんと淳さん夫婦が選んだ名前候補に満足しているようだ。
しかしぶつぶつと何か言っている。
「男の子なら『ヘンリー』、女の子なら『蜜柑』。それか『絹』っていうのもいいな。チッヒロにメールして候補に入れてくれるように頼んでおいてね」
悪気のない顔でいうQちゃん、まるで子供同然だ。
「僕達に子供が出来たら名前は『ヘンリー』か『蜜柑』にしよう」昔はよくそう語り合ったものだ。
半分諦めたからって自分の赤ちゃんの名前候補を「頼まれてもいないのに」譲ってどうするの。
それに『絹』っていう名前候補はいつから君の頭の中に追加されたのさ?
いいよ。報告しておきますけど恐らく「蜜柑ちゃん」とか「ヘンリー君」とか「絹ちゃん」にはならないよ。
そう言うと、Qちゃんはくすっと戯けた顔をした。
もう、 こんな時間。 お腹がペコペコ! 晩ご飯にしましょう!みょうがときゅうりの酢の物
米茄子ステーキ
いんげん
大蒜スープ
朝蜘蛛さんが私のアパートに運んできたのは千寛ちゃんと赤ちゃんの朗報だった。
もう一息だ、千寛ちゃん。 絶対に大丈夫だからね。