私は「水」が好きだ。海、川、 池、 沼、 天気になれば消えてしまう水溜りでもうっとりとしてしまう、それほど「水」に魅かれる。
Qちゃんには私が死んだら焼いてくれ、それでその灰を水のある場所に流してくれといってある。 葬式はするな、日本の家族と数少ない友達に葉書でも送ってくれと頼んである。 Qちゃんはうん、うんと微笑む。 Qちゃんなら忠実に実行するだろう。
疲れていると水のある場所にいきたくなる。
Qちゃんと共にオレゴン海岸に行ったのは1度だけだ、去年の春だっただろうか。
Qちゃんと冬が明けたら海へ見にいくと約束をした、春がそこにいる。 海へいこう、 Qちゃん。
先月春が待てなくて、Qちゃんに水のある場所へ連れていってと頼んだ。Qちゃんは黙ってじっと私を見ていた。仕事の都合で返事ができないのだ。 返事はイエスでもないしノーでもない。
その週末、朝仕事にいく準備をしていると「今日仕事が終ってから、NANAが疲れていなければ水のある場所へ連れていってあげるよ」Qちゃんが暗闇のベットルームから細い声でいった。
嬉しかった、調度日本の母の件で疲れていた。水のある場所で沈む気持ちを少し洗い流したかった。
仕事を済ませ家に帰るとQちゃんが「待ってました」という顔で地図をみていた。私はひまわりさんがくれた紺色のセーターをきて、水のみえるデートへ繰り出した。

Qちゃん、どこに連れていってくれるの? Qちゃんは内緒といって教えてくれない。

今日は天気がいいね、車の中は陽射で熱いくらい。 Qちゃん、窓を少し開けるね。外の空気が吸いたい。

この橋は何処と何処をつないでいるのだろうか。

「この道、僕も走ったことがないんだ。凄いな、こんなにくっきりとセントヘレンズ山が見えるなんて!」興奮してるQちゃん。 余所見運転はしないでね。 この道結構細いから!

車を止めてセイントヘレンズ山(右)とマウントフッド山(左)を一望する。 Qちゃん、久し振りだね、ドライブデート。

のどかな眺め、ハワイ島のユックリな暮らしを思い出しちゃう。

私がハワイ暮らして一番懐かしいもの、それは野菜畑。野菜を育てたい、あの年中サンサンふり注ぐ太陽の下で、雨が豊に降って大地をリッチにしてくれるあの野菜畑。いつになったら畑いじりができるかな。

そのニヤリとした顔、するんでしょう? あれ。

Qちゃんは運転中に服を脱ぐ術をもつ。 誰でもすることなんだろうけど、私は「運転中に何かをする行為」を嫌う趣がある。他人がするのはいいけれど、自分が乗っている車を運転するQちゃんがするとなると問題だ。 私の命を預けているんだからちゃんと安全運転して下さい。

服を脱ぐために両手がふさがっていて足でハンドルを握ったり助手席の私にハンドルを握らせたり、となりにいる私はハラハラ生きている気がしない。

「さあ、ついたよ」Qちゃん車を駐車した。

ここはセイントヘレンズ、コロンビア川に位置する小さな町。

北はワシントン州、南はオレゴン州、コロンビア川は2州を隔てる広大な川だ。

「これ何だかわかるかい」とQちゃん。「犬のふんの袋ボックスでしょう?」と私。

判りやすい絵で説明までしてある、すごくドッグフレンドリーな公園だ。

それもそのはず、勇ましいワンちゃんが公園でお出迎え!

あなた、そうやってコロンビア川を眺めているの。 いいね、水の側で暮らすって。

ねえ、体つきがしっかりしてるじゃない。じゃ、 大丈夫よね。

おじゃまします。

やっぱり風が強いし寒いわね。 車に戻ってジャケットを着ないと凍えちゃう!

「だからいっただろう?川の側は風が強いからジャケットがいるって!」Qちゃん偉そうにそんなことで威張ることないでしょう!

釣をする少年。

心が疲れていても弾んでいても、穏やかな水辺は来る人を平等に接してくれる。

ほら、あそこに鳥が飛んでるよ。 Qちゃん、見える?

このまま静な川の流れを眺めていたい。どこに流されていくのかな? Qちゃんと一緒だよね?

あの少年もいつかこの川を去ってどこかの町で暮らすのかな。少年の頃の「小さな夢」と「夢に近ずくための大きな勇気とその一歩」が「今の自分の暮らし」を運命ずけている。 私の人生はそうだ。

憧れのアメリカ、永住権、 それから、、、、

Qちゃん、あなたと同じ国籍にそろそろなろうかな。

家に向かう車中「見てごらん、シアトルからポートランド行きの汽車だ。 一緒に乗ったよね」窓越しに走るアムトラックを見てQちゃんがいった。
2年前ハワイからオレゴンに送ったものはこの車と2、3のダンボールだけだった。
私が成田からポートランドについた2日後にこの車はシアトル港に着いた。 Qちゃんと私はアムトラックに乗ってこの車を取りにいった。
あれから二人でいちからやり直したね。けど楽しいわ、誰にも干渉されないノースウェストの二人暮らし。

Qちゃん、水のある場所に連れていってくれてありがとう。心が癒されたわ。

私は一人じゃないのね、 Qちゃんがいてくれるから。

大好きなQちゃんに、家に帰ったら晩ご飯作るからね。 長い運転とデートでお腹空いてるでしょう?

鳥肉と茄子、ブロッコリーの野菜炒め
アボカド&玄米
若芽、キュウリ、コーンのサラダ
今はゆっくりと人生の坂道を下っているようで、、、それでもいい、 成るように
成る。