春になった、Qちゃんは約束したオレゴン海岸に私を連ていってくれるという。嬉しかった。

Qちゃんの優しさとは裏腹に天気は曇。風邪がある肌寒い日。

気分が乗らない曇空、このドライブ計画もあまり気分が乗らない私。

せっかくQちゃんが計画してくれた。二人で行けるところ、行ける時に行っておこう。そういって曇がちの自分を励ます。

Qちゃんだってオフの日は自分の時間を好きなように過ごしたいはず。Qちゃんも私に気を利きかしてくれているんだ、判るよQちゃんのその努力。ありがとう、その心遣い。

なんでかな、曇空のせいかな。車で座っているだけじゃ、つまんない。Qちゃんのお話も聞こえない。

Qちゃんとの暮らしに満足してる、けど時々逃げ出したくなる。

どこに行く、行くとこなんてないくせに。強がりなだけの弱虫な私。

Qちゃん以外に誰があんたを待っている。誰もいやしない。

そういって、またQちゃんといっしょに人生ハイウェイに乗り出す。

Qちゃん、運転疲れたでしょう。私は疲れた、少し歩きたい。

ここはオレゴン州のアストリア。レンガ旁の建物がたたずまう、小さな港街。曇日には誰もいない。家でゆっくりしているのかな。

ここはオレゴン州、この川を超えるとワシントン州。

2州をしっかり繋ぐ長い橋。あの橋を完成させるまでどれだけの時間と労働が骨組になっているのかしら。そう思うとすごいね「人の力」って。

人と逢って別れて、時には笑って怒って。そうして時間と労働を骨組みにして人と人との間に信頼という橋をかける。 丈夫な橋を築いても腐敗することもある。自分が手を伸ばしても相手が手を引っ込めることもある。 橋を掛けても時折補修が大切。

ここからだとあの舟が停止しているように見える。自分も「今の時点」で停止しているように思うことがある。目で測る暮らしではなくなった今の暮らしの中では。

そんな時かもめが頭上に飛んでくると、はっと我に返る。 自分の流れが今までより遅くなっただけで、周りの流れはお構いなしにそのままの早さで流れていることを。

人との背較べはもう嫌だ。私は自分のペースでユックリと道を進んでいきたい。のろのろでもいい、人に追い抜かれてもいい、びりっけつでもいい。残りの人生は温かい日光と、草の青々しい匂いと、爽やかな風を身体と心で感じて歩きたい。

心が冷えるね、こんなどよんとした日は。かもめもこの寒さで自分の首をマフラー替りにしているよ。

Qちゃん、線路のある風景が私は好きなの。いったっけ? 都会の複雑な線路じゃなくて、田舎の素朴なものが好き。人生もこの線路みたいに1本なら簡単でいいのにね。

Qちゃん、そろそろ行こうか。太平洋の海はもうそこだもんね。

かもめを後にQちゃんと共に駐車場を去る。
車の中でも心は曇空。車から飛び出して一人で家に帰りたくなる。そのままQちゃんとシーサイドまで行き海を見たのがが30秒だけ。 写真を撮るのもじれったいくらい私はイライラした。
今回の旅、初めからそんな予感がしてた。天気とタイミングが悪かったよ、Qちゃん。それにきっと私は疲れていたんだ。 こんな時は家でごろっとしてたほうがずっといいや。今回はQちゃんに嫌な想いをさせたな。