2007年12月22日土曜日

12年振り、アイダホ州ルイストンに帰ってみます-- (7)

キャンパスからルイストンの街へ移動したQちゃんと私。大学の近くを土曜日の早朝の朝靄の中をドライブ。 懐かしい大学時代の友達のアパートの側を通る度に、あの頃の自分を思い出す。
私の第二の原点でもあるこのルイストンの街で訪れなければいけないところがあった。その中の一つは大学から歩いて5分くらいの小さな公園だ。初めてQちゃんとデートをしたのもこの場所だった想い出深い所だ。

白いコンクリート造りのドーム、左隣の小さい茶色の建物。 あの頃は2階立ての図書館だった。

ある週末の朝、Qちゃんと私は初めてピクニックデートをした。朝Qちゃんが私の家に彼の白いトヨタトラックで迎えに来た。 ホストマザーのダナおばあちゃんが「NANAを愉しませないと、あんたのおしりをけってお仕置きするわよ!」といつもの辛口ジョークでQちゃんと私を見送ってくれた。

私を乗せた車はなぜか近くのスーパーマーケットで止まった。 不思議な顔でQちゃんの行動を観察していると「これから今日のランチのパンを買いにいくから」と何食わぬ顔で前方を歩いていくQちゃん。二人で朝9時前の客足の少ないスーパーのデリセクションでフランスパンを買った。

その足でピクニックの目的地ラップウェイに車は向かった。ラップウェイはQちゃんが大学前に住んでいた場所、ネイティブ アメリカン ネスパース部族の保護地区だ。

ルイストンから高速道路に乗り、車で20分も走らせればラップウェイに到着。 初めに歴史館で映画を見て、ネスパース部族の自然と隣合わせの暮らしを映しだすディスプレイをQちゃんがガイドになって説明してくれた。 館内局員のリンダさん(Qちゃんのラップウェイのお母さん)が二人を笑顔で出迎えてくれたのを覚えている。

歴史館を出て裏の公園を歩いた。そこがピクニックの予定地だったが、その日冷たい雨風が降ってきた。急遽場所を変えることにしたQちゃんは再びルイストンに引き返して、私をこの公園に連れて来た。

公園の側にトラックを止め、ピクニックの為のマット蒲団とピクニック鞄を両手で抱え、大粒の雨の中二人で芝生を駆けぬけた。
この建物の下なら意地悪な風も冷たい雨も凌ぐことができた。

二人でベンチに座って一息。なんだかお腹も空いてきた、Qちゃんは自分が用意してきたピクニック鞄を開けた。中から出てきたのは、クラッカー、アプリカット、林檎、バナナ、フランスパン、リアルチーズ、オリーブ、クリームチーズ、 サラダ、スパークリングジュース、、、、。

Qちゃんは持参していた折畳み式ナイフでパンを切り、チーズを切って、その上にグリーンオリーブを乗せて私に差し出した。自宅で作って用意する日本のサンドイッチやお弁当を想像していた私はすこしびっくりた。この時初めてアメリカではこんな風にその場で新鮮なものを頂くのだなとピクニックの新しい方法を学んだ。

アメリカ1年生の私にQちゃんはこのように色々なことを経験させてくれ、 教育してくれた。時には自分の日本の親より厳しい存在だったが、その厳しい愛情があってこの国で現在の生活をこの上なく楽しんでいられるのだから、当時のQちゃんに感謝しなくては罰が当たる。
あの時もこんな風に二人で肩を寄せ合って寒さを凌いだね。

この公園にはもう一つ私にとって想い出がある。私が再会したかったのはこの木。
Qちゃんと私の大学での4年間は山あり谷ありだった。あの時も"また" Qちゃんと別れた頃だ。

ある朝私のアパートにQちゃんが置き手紙をポストにいれていった。紙を開くとそれはアパートからこの公園までの地図になっていた。ゴール地点にTREASURE (宝)と書かれていてハートマークが描かれていた。 前にも書いたけどQちゃんはお金がないかわりにこういう乙女チックなことをする男だ。それは今でも変わらない。

Qちゃんと別れて彼氏がいない休日、暇だからこのゲームに乗った。地図を手に一人でルイストンの街並を歩いた。

公園に着いて目的地らしい場所をウロウロした。特別なものは見当たらないし、 普段のまま休日を楽しむ家族がいるだけだ。周りをキョロキョロしていると小さな石碑の上にリボンで結ばれた黒い箱を見つけた。
石碑の後ろには私の背丈ほどの細ぼそしい若木が立っていた。最近植えたようだ、根元の土が赤く新しい。その石碑には「愛する NANA の想い出」と刻込まれていた。誰かが最近亡くなったNANAさんへの想い出に植えたのだろう。

その上にリボンのある箱が乗っかっていた。私へのプレゼントだろうけど、、公共の場でもあるし、なんだかこのままポケットにいれるのもどうかなと戸惑っていると、モジモジしながらQちゃんが向うから歩いてきた。

「来てくれたんだね」と笑顔が少し強張っているQちゃん。「うん、来たよ。 この箱が宝なの? それともこの NANA って木が宝なの?」少しクールに聞く。「両方。」Qちゃんすこし黙ってしまった。

ゴールドのリボンを解いて黒い箱を開けた。中からパンダの絵が描かれたゴールドコインが出てきた。 Qちゃんは人生の節目の記念にゴールドコインを人に送ったり、購入したりする。この時は別れた女とやり直す為にその女に送ったものだった。 そして別れた女はそのプレゼントを受け取ってよりを戻した。

結婚してから私のパンダのコインはQちゃんのセレクションに仲間入りした。「あの時から最終的には自分の物になる」と計算してゴールドを購入したんでしょう、と 真剣にQちゃんに尋問することがある。
あれからの12年はあっという間だったけど、この木の成長振りを見ると長かったことが分かる。肉眼では測定できないが「私の心」もこの木のように成長したはずだ。
公園の高台から見渡すクリアウォーター川、煙突の煙が消えることがないポットラッチ工場、ルイストンはあの時と同じ姿で私とQちゃんを迎えてくれた。