仕事が7時に終る。私はひまわりさんがくれた「苺の苗」をしっかりと手に持っていた。
帰り支度をしていると私の本の上にひまわりさんが残しておいてくれたピンク色のメモをみつけた。「いちご忘れないでね。 実がなるといいな」と書添えてある。苺のイラストと一緒に。
去年もひまわりさんは同じように「苺の苗」をくれた。 私のアパートのベランダは太陽が当たらないが、西日の寝室の窓際において苺がなるのを願った。 小さな苺を2、3個収獲できた。
ひまわりさん、ポッと私の心に温かいものが伝わった。
ひまわりさんがくれた素敵な篭に入った「苺の苗」を抱き締めて今から家に帰る私を想像する。 シンプルな暮らしに満足している仕事帰りの私がいる。そして私の隣にはQちゃんが一緒に歩いている。
テルルルル、 テルルルル。
「もしもし?」2度目のベルでQちゃんが電話に出る。
「Qちゃん? 私です、NANAです。 今から帰るけど『歩いて』迎えにきてくれる? まだ外は明るいから『帰るデート』しようよ」と誰もいない従業員ルームの電話でQちゃんに甘えてみる。
いつもの帰り道を「苺の苗」を抱えて歩く。いつも一人で帰っているこの道も今夜は足取りが軽やかだ。ひまわりさんがくれた「素敵なもの」が私の心をリズミカルにしてくれる。
長く続く1本道の歩道。 一人とすれ違う、そして又一人とすれ違う。ぼんやりと緑のティーシャツに半スボンのジーンズ姿が此方に向かってくるのが見えてくる。
O脚で大きく一歩一歩足を前に出していく。胸をしっかりと張って黙々と前を向いて歩く。 あれはQちゃんだ。
こうやって「道のどこかでお出迎えデート」はここ16年いつもしてきた。
10代の頃、20代の頃、そして30代になっても「道のどこかでお出迎えデート」は私達カップルにはかかせない「二人の時間」。
Qちゃんの姿を見ると私の顔が益々笑顔になった。 子供だったら走っていただろう。心はQちゃんの側にすでに走っているが、 身体はマイペースで着々と足が前に進む。
30メートル、15メートル、 5メートル。目が悪い私にもQちゃんの笑顔が見えるまでの距離になってきた。
二人は互いに笑顔でお迎え。「ハーイ」と言葉を交す。
「Qちゃんが向うから歩いてくる姿を見てたけど『その歩きかた』大学生の頃から変わらないわね」と恋人のようにドキドキしながらQちゃんにいってみる。
相変わらず人の話を聞いていないらしい。春の夕暮れにQちゃんは気持ちよさそうに目を細めている。
人の話を聞いていないのも変わらないけど、髪の毛が徐々に薄くなっていることは変わっていってるね。と心の中でQちゃんに話しかけてみた。
Qちゃんには聞こえてない。声に出しても聞いていないだろう。今の状態の彼は恐らく私の言葉に反応しないだろう。
「それなあに?」と私が抱き抱えている「素敵なもの」をみてQちゃんが尋ねた。
「何だと思う? ひまわりさんからもらったんだ」と言う私の腕から「素敵なもの」を受け取って「オー! ストロベリー!」と感激で言葉をなくしたQちゃん。
ベリー系好きなQちゃん、さぞかし嬉しかったのでしょう。「苺の苗」の篭を自分の左手にしっかりと握って、私とQちゃんはまだ明るくて暖かい夕時のアパートまでの1本道をテクテクと歩いていた。
Qちゃんの細くて長い影、その隣に丸くて短い私の影が歩く地面に写っていた。そして細くて長い影の左にはひまわりさんがくれた「素敵なもの」の影もユラユラと写っていた。
「仕合わせな人から、仕合わせを分けてもらう。 Qちゃんと私、そんな仕合わせな人に出逢って仕合わせだね」とQちゃんの影にいってみる。
「そうだね、 ひまわりさんにいつも何かしてもらってばかりだね。何かしないと悪いな」今回は私の言葉をQちゃんはちゃんと聞いていたようだ。
ひまわりさん、今何を望んでいるのかな?
「健康で家族が仕合わせなら一番だね!」なんて返事が返ってきそうなひまわりさん。 だけどひまわりさんが欲しいもの、それはいったい何だろうか。 今度聞いてみよう。
今年もひまわりさんがくれた「苺の苗」は緑の葉っぱをグングンと伸ばして夏を感じさせてくれるだろう。
ひまわりさん、疲れているはずなのに心がほんわりしているのはあなたの厚意のお影です。
「お腹すいてる? ご飯があるから、 卵で晩ご飯を作ってあげようか?」そんなQちゃんの言葉もありがたい。 けど「道のどこかでお出迎えデート」ができたことに今夜の私はとても満たされている。
残りものでいいわよ。それで充分。はい、 これがQちゃんプレート。青菜と萌しの炒めもの
ツナマヨ
アスパラと長葱のソテー
レンタル豆とコーンサラダ
トマト
玄米
熱い夜はさっぱりとしたソーメンが食べたい!という私にはこのプレートで。玄米の替りにソーメンを頂きます。つゆ? 胡麻油に酢、タイ醤油、レッドペッパーでさっぱりピリピリと頂きました。
今日も満足のいく1日を過ごせました、御馳走様でした。