ある時黒猫さんがミャーと近ずいて来て「あのね、 ケフィアって、、、」と語りかけて来た。 黒猫さん、仕草も猫に似てソフトに話す。
黒猫さんによるとケフィアを口の中に入れると「あのね、 こう、、何と表現したらいいのかな? 、、、ほら、 こう、、『ピリピリッッツ!』と来るのよ。ねぇ、 NANAちゃんもそう思わない?」
私の周りにはどうしてこんなに可愛い人間が多いのか。この『ピリピリッッツ!』という表現、黒猫さんは目をギュツと閉じてケフィアを口にしている自分を再現しているようだ。
黒猫さん、ケイファの栄養素や過程方などから「この『ピリピリッッツ!』現象」はケフィアに繁殖するアクティブな菌さん達がもたらしていると考えているようだ。
私がケフィアを口に入れても『ピリピリッッツ!』現象は起こらなかった。 それよりも黒猫さんが一所懸命に『ピリピリッッツ!』体験を訴える姿がとても愛しかったのだ。
もし彼女が本当に黒猫だったなら、すぐに両手で抱き上げてほうずりをしているだろう。
「NANAちゃんも今度試してみて、『ピリピリッッツ!』って来るかもしれないから」と云って黒猫さんはミャーとまた仕事に戻っていった。
顔が出かく頬がふっくらしているため、私の口内はかなり肉厚なようだ。自分で見たことはないが、歯医者のビビアン先生が「この余分な私の頬肉」をアシスタントに引っ張らせて四苦八苦して治療をしていた。
だから私の口内はアクティブな菌の刺激を受けにくい構造なのだろうか。それとも私の舌が鈍いのか。
Qちゃんはどうだろうか? Qちゃんは私と大違いで顔がほっそりしている。 口の中を調べてみたことはないが、肉厚ではなさそうだ。 それに彼はかなり味には敏感な美食家だ。その夜Qちゃんに『ピリピリッッツ!』現象を体験したことがあるかと聞いてみた。 Qちゃんも首を横に振った。
果してケフィアを口に入れると『ピリピリッッツ!』現象となるのは「黒猫さんの妄想」だったのだろうか。
あれから3週間くらい過ぎた。
昨日はあまりにも天気が良くてQちゃんと散歩に出かけた。 今日も昨日に続いてポカポカな春日和だ。家に帰って来たQちゃんが「久し振りにTrader Joe'sに買物に行こうか」と誘いをかけてきた。
Qちゃんと一緒にテクテクとスーパーに向かう。信号待ちの時間を含めると徒歩15分位でTrader Joe'sに着く。 私のアパートはこう考えると地理的に悪い場所ではないなと思う。
Qちゃんの大好きな健康食品ストアTrader Joe's。かつてこの場所でケフィア第1号を購入した。今回はレギュラーでなくて苺味を買ってみた。 私はどうも苺味に弱いらしい。 苺味の品物となると手を伸ばしたくなるのだ。
この店はいつもお洒落なサンプルができるのだが、今回はフムスとチーズ入りの丸々に太ったグリーンオリーブとライスクラッカーだった。
この店なら本物のフムスを試食できる。Qちゃんにそういってフムスをクラッカーに付けて食べてみた。
なんだ!私の作るフムスとたいして変わらないじゃん!他の客を気にして、私は声を潜めてQちゃんにいった。
「いつもそう云っているだろう? NANAのフムスは店とたいして変わらないって」Qちゃんはニコニコしながら彼が大好きなグリーンオリーブを私の皿から摘み食いした。これで「私流フムス」に自信がついた。
アパートには誰もいないのに二人とも「ただいま」と云って家に入る。 もちろん私達はペー君に挨拶をすることを忘れない。
「ペー君に大好きなドライフルーツを買ってきたからね」Qちゃんがペー君に話しかけている。Qちゃん意外に誰がドライフルーツを食べるのか、Qちゃんしかいない。それは単なる「自分への言い訳ではないのか」と側で盗み聞きをしている私は思っていた。
あらもうこんな時間、 晩ご飯の支度を始めないと。ついでに黒猫さんのケイファで『ピリピリッッツ!』現象を試してみよう。黒猫さんがくれたハートのコップに苺ケフィアを注ぐ。トロッとしてるケフィア。ドキドキするな、『ピリピリッッツ!』は私の身にも起こるのか?ケフィアを口に入れて20秒ほど舌で遊んでみたが、『ピリピリッッツ!』といういう稲妻センセーションは私を襲ってきてはくれなかった。
チキンとレッドポテトと法蓮草の炒め煮
ミレットイタリアンサラダ
黒猫さん、『ピリピリッッツ!』は起こりませんでした。だけど私の頭の細胞が「体にいいもの入れてるぞ」って騒いでいるようです。
「何かを感じる心」があればそれでいいのでしょうか。黒猫さんを感じる心、私なりですが、私には少なからず備えてあるようです。