2008年4月2日水曜日

けんじくんへの手紙

けんじくんと逢ったのは15年前のルイストンだったね。けんじくんは私より3つ歳上でお兄さんのようで頼もしかった。

日本語を話すのが嫌だった私を現地の日本人学生はよく思ってなかったかもしれない、あの頃の私は英語を学ぶことに必死だった。 そんなたくさの日本人がいる中で私と英語ですんなりと会話をしてくれたけんじくんの姿をまだ覚えている。

けんじくんはいつも友達に囲まれていたね。 私はそんなけんじくんの「One of your friends」だったけど、けんじくんと過ごした「小さなこと」を昨日のことのように覚えている。それだけけんじくんのことを特別な友達としてみていた。

けんじくんに連れていってもらったダウンタウンのチャイニーズレストラン。覚えてる? 入口を入ったら奥に長い作りになっていて店内のすぐ左上に階段があって、その半2階の空間にテーブルが並んでいた。

あの時はお昼前だったのか、お昼過ぎだったのか15年たった今では記憶が定かではないけど、人気の少ない時間だった。 そこでけんじくんにランチをご馳走になった。

私達どんなお話をしたのかしら? 英語だったのかしら、それとも日本語だったのかしら? あの頃の私、英語で話してたかもしれないわね。

けんじくんの学生寮にお邪魔させてもらったこともあったね。「けんじくんの寮に遊びに行ってきたの」とQちゃんに告げると「自分もその寮に住んでいたことがある」って聞いてもないのにいってたっけ。あの寮は成績優秀な学生しか住めないんだよってちゃっかり付け加えて。

あの頃はQちゃんも私も煮え切らない関係だった。他の男の子には嫉妬を見せることがあるのに、けんじくんなら大丈夫みたいなところがQちゃんにはあった。

あの夏の昼過ぎの学生寮に省子ちゃんのコリー君もいた。けんじくんは知ってるかしら? コリー君が他界したことを。省子ちゃんから手紙が届いたの、もうどのくらい前になるかしら。 それ以来省子ちゃんとは連絡が着かない。 私もあれから台湾に行ったりして、お互い音信不通になったのかな? シアトルのどこかに
現在もいるはずなんだけど、、、。

けんじくんがルイストンを去ってカリフォルニアに行ってしまった。いつも何か新しいものを求めていたから驚くこともなかった。淋しくなったよ、けんじくんがいなくなって。

そうそう、私のホストマダーのダナもけんじくんのことを讃めていたよ「しっかりしている学生だね」って。ダナおばあちゃん、覚えてる? 生きているのなら 彼女も今ではシアトルのどこかで息子夫婦の家で過ごしているんじゃないかしら。

去年ルイストンに12年振りに帰ってみたの、ダナの家にはもう違う人が住んでいた。 そうよね、12年も立つと人も心も環境も変わるわよ。私も変わったわ、けんじくん。 けんじくんも変わったわね、きっと。

だけれどひとつだけ永遠に変わらないことがあるの。それは「けんじくんがニューオリンズにいった」ことが後に「私とQちゃんを夫婦にする接点になった」こと。けんじくんは、この手紙を読むまでそう考えもしなかったでしょう?

皮肉なことに卒業後の私が進む場所へ手を差し伸べてくれたのは4年も一緒にずっと私の側にいたQちゃんではなくて、3年以上も離れていたけんじくんだった。

卒業後アメリカのどこに行くかも分からない私にニューオリンズ行きの切符をけんじくんが差し出してくれなかったら、私とQちゃんは一緒にはなっていなかった。

信頼できるけんじくんがいたから、私はQちゃんを忘れて未知なる土地へ飛べた。 21歳そこそこの女にあの選択ができたのは「恐いもの知らずという若さ」と「けんじくんへの信頼があった」からできたことだった。 あの頃の私を回想するとよく判る。

あれからいろいろあったよ、けんじくん。 私も「晴れて」大好きだったQちゃんの奥さんになったけど、人生って自分の思うようにはいかないね。

Qちゃんが好きだといってくれた頃には熱が冷めてしまっていたんだから、人間の心って変わるんだなって思った。「それだけ彼のこと真剣ではなかったのかな」と自分が冷酷な女になったような気がした。 けど時間と環境と運命がすべて解決してくれた。今では「Qちゃん、Qちゃん」ってすっかりQちゃんの子猫におさまっている。

Qちゃんはあの時のまま思いやりのある優しい人。この人の奥さんになって「女として男に必要とされている」と年々感じさせてくれる旦那になったわよ。

やっとけんじくんにこうして報告できるね。もちろん良いことばかりではなかったし辛いことも経験した、けど良かったと思う。 辛いことを乗り越えて初めて獲るものがあるって発見もした。

けんじくん、15年前にあなたに会えてありがとう。 そして12振りにミクシーでまた再会したことにありがとう。

あの頃と同じであっちへこっちへと毎日忙しそうね。人にも気配りをして、仕事にも精を出しているけんじくんの姿を想像している。シアトル勤務になったって書いてあったね。 けんじくんの時間があるときにいつでもオレゴンに遊びに来てよ、何もないアパートだけどソファーとブランケット、食事は私のpriceless 愛情料理で歓迎しますので。

けんじくんに夫婦になった私とQちゃんに逢ってほしい。こう見えても我が家は亭主関白なのよ。基本的には陰でQちゃんを支えているつもりなんだけど、皆から我がままな妻だってよくいわれるの。 けんじくん、どう思うか観察しに来てよ。

料理もヘルシー志向のQちゃん好みに変えたの。今夜だってチキンを蒸して料理したわよ。けんじくんもいっしょに食べない? 食べに来てよ!
アップル&オニオンのスティームチキン
レインボーサラダ
レッドポテト
ピクルス&青唐辛子

信頼でつながっている人と長年逢えなくても平気なのは何故だろう。 またどこかで逢えると心の片隅で想っているからかしら。

けんじくんはそう思える数少ない素敵な人だったのよ、ずっと私の心の中では。「やっと再会、そうなるようになっていたのかな」なんて一人で想いながらこの手紙を書いてます。