2007年10月17日水曜日

天然樹脂(てんねんじゅし) - 琥珀の指環 (2)

-中編-
Qちゃんと私は結婚指輪をしていない。Qちゃんから貰ってないし、私もあげてない。二人とも欲しいとは思わなかった。 二人はそれでも平気。

結婚指輪を贈ってない息子に呆れ顔をしたラニママは、オアフ島のバハイ教センターで指輪を私にプレゼントしてくれた。沢山ある中シンプルな指輪を選んだ。
Qちゃんとの結婚生活にときめきや期待を抱いてなかった。直ぐ消える情熱とか刺激よりQちゃんとの安定を求めてた。 そんな22歳の新妻の心境に飾り気のないその指輪はピッタリだった。

ハワイ島に住むブルークス(義理の父)はワシントン州のサンファン諸島で骨董店をしていた。その時の品物なのか、彼の広大な客室には沢山の珍しい骨董品がある。結婚報告をしに訪れたその朝、薄紫のアメジストの指輪を私にくれた。石言葉は高貴・誠実。その日からこの指輪は私の左の薬指にはめられた。
結婚生活が始まり数年が過ぎた。職場や大学で結婚していく知り合い/友達を見てきたが、話題は皆ダイアモンドの指輪に集中していた。彼達は結婚指輪をくれないQちゃんをけちだと笑った、それを何とも思わない私もよく彼達と一緒に笑ってたっけ。

仕事から帰ってテレビをみているQちゃんにある日初めて聞いてみたことがある。「結婚指輪に如何してダイアモンド(宝石)の指輪をくれなかったの?」と。

「NANAは欲しかったの?」ううんと首を横に振る。

テレビを消してQちゃんは私と向き合った。

「ブラッドダイアモンドを知ってるかい?」首を横に振る私にQちゃんは続けた。
「世界の豊かな國で結婚指輪のダイアモンド(宝石)を欲しがる人間のために血を流す人がたくさんいるんだよ。その指輪をはめて喜ぶ彼らはその犠牲を知らないだろうけどね。人の命を犠牲にした宝石を結婚の証しにする価値はないと僕は思う。」Qちゃんの結婚指輪=ダイアモンドではないという想いは初めて聞いた。 結婚して7年経っていた。

それから数ケ月達った。Qちゃんはチャータースクールのコンフレンスでミズウリー州へ出張に行った。会場ホテルの隣でたまたま恒例のアイリッシュフェスティバルが町を賑わせていた時期だった。「今日のコンフレンスの後、 店仕舞いをするベンダーからNANAに買ったものがあるんだ。愉しみにしててね。」知らない都市(まち)で一人で夕食を済ませホテルで寛ぐQちゃんからの電話報告。

出張からハワイ島に帰りスーツ姿から短パンと半袖姿に身を包むQちゃん。懐かしい愛妻料理を食べようとソファーに腰掛ける。と同時に安っぽい小さな茶色の紙箱を私に差し出した。なんだか嬉しそうなQちゃん。

開けると中から琥珀の指輪。シンプルな琥珀のリング。 まるで今までの私達夫婦の結婚生活を象徴しているかのようだ。あんまり琥珀は好きじゃないのが本音の所。Qちゃんと私は趣味が違うのだ。けど嬉しかったのは事実だ。
「これ、正式な結婚指輪じゃないわよね?」 水を差す私。

「、、、、、何か言った?」人気番組のロストをみながら夕食に夢中のQちゃん。 Qちゃんはいつもテレビを見始めると人の話を聞かない。テレビを見ている横顔に「お帰りなさいQちゃん」と心の中でもう1度云った。

琥珀の指輪。これが私の結婚指輪、、、、なのかな? Qちゃんの口から正式に聞いてないから、未だに明確ではない。

薄紫のアメジストを薬指から外ずし琥珀の指輪を新しく薬指にはめてみた。それからしばらく琥珀の指輪は薬指の座を占めていた。

仕事をやめてどっぷりと主婦になったあの日から指輪はしてない。私にとって薬指にリングをすることは、Qちゃんへの愛の忠実心からではなく、既婚者という社会グループに所属するバッジにすぎなかったからだ。

社会の目を気にする自分ではなくなった今。ラニママからのバハイ教の指輪、パパブルークスからのアメジストの指輪、Qちゃんからの琥珀の指輪は私の左手の薬指にはもう必要がなくなった。信実の夫婦愛は肉眼で見えるダイアモンドや宝石のリングがなくても確かめられることを日々体得しているからだ。

-中編終了-
さあ、晩ご飯、 晩ご飯。

  • ブラックアイズビーンの野菜カレー
  • ツナサラダ
  • わかめオムレツ
  • 玄米
  • サワークラウト