新婚生活は日本でスタートした。近くのスーパーで安売りのゴボウを見掛けると旦那様の健康管理にと胸を弾ませながら買物かごの中に入れた頃もあった。
家に帰り、我ながら美味しいと自慢できるほどのキンピラゴボウを作った。Qちゃんは顔を引き攣りながら「うん。おいしい。」ポツリと言うだけ。もっと激しいリアクションが欲しい!
次の日は残りのゴボウで炊き込みごはん。鳥肉と椎茸をいれて炊飯器のスイッチを入れて待つこと30分。食欲をそそる香りが炊飯器から吹き出ている。さてQちゃんのリアクションは、、、「僕、炊き込みごはんより白いごはんが好きだな。」
負げずにこれでもかと次の日にもゴボウの入った豚汁を作った。味を確認。 うん、美味しい。これならQちゃんも喜ぶぞ~。「ねェー、料理上手な奥さんをもらって幸せね。」と堂々と言えるはずだったが、ゴボウを豚汁の中に発見したQちゃんは少し怒った声で私に言った。
「NANAには悪いんだけど、ゴボウは見るのも嫌なんだ!!」
ショック!私は大好きなのに!日本人の旦那さんだったら喜んで私の自慢のゴボウ料理を食べてくれるはずなのに、、、、「ちぇっ、こんな分からず屋のアメリカ人となんて一緒にならなければよかった」心の中で舌打した。
不機嫌な新妻をいましめるように「これから末長く一緒に暮らすんだから僕の好き嫌いははっきりと今のうちに言うべきだろう?」と平然な態度。まあね、言われてみれば理にかなってる。
Qちゃんは普段の落ち着いた表情を取り戻すと、自分の目の前で口を尖らせている私にある夏の想い出を語り始めた。
94年の夏Qちゃんは九州福岡の博多で造園業を営む〇〇さん宅でホームステイをした。御主人は村でも威厳を持つ方で亭主関白を絵に描いたような九州男児だったらしく、家での仕来りは男尊女卑。ノースウェストでスクスクほわわんと育ったQちゃんには馴染めなかったのだろう。
猛暑の九州で汗ダクダクになりながらの長時間の重労動生活、勿論只働き。バスもない田舎町だったこともあり、少ない休日は自転車で田んぼ道を横切り、片言英語の話せるご家族のお宅にお邪魔するのが唯一の楽しみだったらしい。この部分はアメリカに取り残された彼女(私)にせっせと手紙で報告していたから充分承知だった。
反対賛成は別にして日本の文化や仕来りを面白い経験として記憶に残すことは可能だったが、毎日三食きんぴらゴボウを出される食事に堪えることは不可能だった。なんだ? この部分は聞いてないぞ。これほどまでにゴボウを嫌う理由があったのか。
この夏の経験が後遺症となりQちゃんは食物繊維優等生のゴボウさんをシカトするようになった。
それからは様子を見ながら少しずつゴボウさんとの面会を作る努力をした。そのかいあって、今ではゴボウさんの美味しさを再び味わって感謝できるまでに回復した。
先週ゴボウさんの安売りをしていたので、あの頃の初心の気持ちに戻って買ってみた。細長いゴボウさん達の皮を丹念に包丁の腹でこすりとると泥臭い匂がする。この匂いがいい。やっぱりゴボウが好きだ。今晩はゴボウを使ったメインディシュを作った。
- ゴボウ、砂肝、スナックえんどうの甘醤油炒
- レッドポテト
- チンゲンツァイ
- 昨日の残りの和風サラダ
- 手作りキムチ
- 玄米
久々のゴボウさんに舌鼓をうつQちゃん。旨い、 旨いを連発するほどお腹が空いていたのだろうか。 新妻だった私はこんなリアクションをして欲しかったのよ、 Q太郎!!!