「なな、私はもうオレゴンにいるから、週末に逢えたらいいな」留守電に残っていた子供っぽい声はあきこ特有だ。
夏休みに日本に一時帰国していたあきこは現在サンホゼでピアノを教えている。
あきこは15年前アイダホ州の大学で知り逢った仲だ。それから彼女は彼女の道を、私は私の道を歩いてきた。
最後にあきこと連絡をしたのは私がハワイに移ってからだったのか、それとも日本にいたころだったのかすっかり憶えていない。
そんなことどうでもいい、今夜二人が再会できるのだから。
仕事を終えてポートランドのダウンタウンへ急ぐ。 SW 2nd Ave と Pine の角にあるあきこ指定のタイレストラン「Thai E-San Cuisine」で落ち合う約束をした。
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美しい女(ひと)にすっかり変身してしまった。
それは旧友の私だけではなく、街ですれ違う人達も共感している。
あきこと再会できて黄色い歓喜を上げる。 やっとのことで興奮がおさまり、ふと彼女の座るテーブルの前にある黄色の花にきずく。
あっこちゃん、そのお洒落な花どうしたのよ?
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あきこは私がハワイで(良くも悪くも)もんもんしていた間にこの街にあるポートランド州立大学(PSU)の大学院で音楽専攻で数年前に卒業して「現在のサンホゼ暮らし」に至ったそうである。
調度私がオレゴン州に「お邪魔します」と靴を脱いで玄関に足を入れた時に、彼女はオレゴン州に「お世話になりました」と靴を履いて玄関から出ていったようなものだ。
昔話に夢中でまだメニューに目を通していない。
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あっこちゃん、何食べる? 私、とってもお腹が空いてるの。
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「皆なで食べれるファミリースタイルにしよう」とQちゃん。
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今晩はファミリースタイルだから自分で皿に入れて下さいよ。 はい、あっこちゃんも、 Qちゃんも自分でよそってね。
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スープをよそったのにまだ口をつけてないあきこ。
あら、 あっこちゃん。 どうしたの?
写真撮影が終了するのを礼儀正しく待っているのだろうか。
そんな必要はないよ、スープが冷める前に、さあ早く飲んでよ。
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あっこちゃんに逢えて嬉しくて興奮してすっかり「周り」が見えなくなっていた。
ごめん、ごめん、あっこちゃん。 はい、どうぞ。 スプーンを彼女に手渡す。 あっこちゃん、美味しそうにスープを口に運んでいる。
さあ、 次の注文はあっこちゃんにお任せ。
「パッタイ、大好きなの! オーダーしてもいい?」
大賛成!私もQちゃんもパッタイは大好き! ねえ、スパイシー度はどうする? 激辛、ホット、それともマイルド? 3人で緊急会議。
「私かなり辛口がいけるわよ」というあっこちゃん。 でも、ここは無難のホットにしておきましょう。
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では私がタイカレーを注文します。 グリーンはパス! レッドかイエロー! 今夜はあっこちゃんと食事ができて心が熱いからレッドにする!
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「忘れないうちに二人の写真を撮ってあげるよ」Qちゃんがカメラを握る。
カシャ!
「はい、こんな風に撮れたよ」Qちゃんがテーブル越しの二人にカメラを手渡す。
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「そ、そんなことないよ」って言ってるけど、 あっこちゃんの声が笑いで微妙に振動して裏返っているよ。
自分で言うのもなんだけど、私は性格も顔も身体も「金八先生」みたい。ここまで来るともう笑いが止まらない。
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ウエイトレスがマンゴーとココナッツライスプディングを運んできた。 あれ? オーダーしてないんだけど。トイレに行ったついでにQちゃんがオーダーをしたらしい。 Qちゃん、 マンゴーもライスプディング好きだもんね。「食べないの?」と一人で口を動している。
大好きなタイアイスコーヒーでそろそろ「あきことの再会」の幕を静に閉めようか。
ミントキャンディー。あっこちゃん、これ家にもって帰っていい? ミントコーヒーにするの。
最後にもう1度「15年振り再会記念撮影」の写真をパチリ! 何度撮影しても美女と武田鉄也だ。
もう9時半過ぎ。 長居してしまったね。 レストランには数名の客しか残っていない。
あっこちゃん、明日の夜にサンホゼに帰るの? ポートランド最後の夜は夜景の見えるバーで友達とカクテルを交すようだ。あなたみたいに綺麗な女を夜道一人で歩かせるのは心配だから、金八先生とQちゃん男二人で送っていくよ。
大人の遊び方、 もうしてないな。
あきことハグをして、再会を誓う。 大丈夫、生きてれば又会えるから。
おやすみ、あっこちゃん。 そしてダウンタウンポートランド。