アメリカにきてスナック菓子の品種の多さには圧倒させられた私。 その中で忘れもしない「君との出会い」。
Qちゃんと深夜のショッピングデートをしていた「あの夜」。
「明日スティーブがポットラックパーティーをするんだ。何をもっていこうか? ドリンクは7UPでいいだろう。 で、チップスはどれにしようかな?」とスナックセクションを二人でウロウロ。
莫大なスナックの群れの中、緑のパッケージが私の目に飛び込んできた。
Qちゃん、これなあに?
「サンチップスだよ。 あれ、食べたことなかったっけ?」と驚くQちゃん。
時々私がアメリカに来てから数年しか達っていないのに自分と同じカルチャーをずっと共同してきたかのようにQちゃんは反応した。私はアメリカの小学生よりもアメリカカルチャーについては無知だったのに。
ないよ。ねえ、おいしいの「それ」?
「そうだな。まあまあかな」あまりQちゃんのお勧めではないようだ。
彼は昔からジャンクフードを自分のスナックに買う人ではない。彼のスナックはいつもアプリコットや林檎、ドライフルーツにナッツなどヘルシーなものを雀の涙位の量だけ買うのだ。
Qちゃんの言葉なんて聞かずに、私はサンチップスを大きなカートの中に入れた。
車の中で待ち切れず緑の袋を開けて、チップスを1枚口に入れた。
パリッ。
経験したことのない味。
男の身体のようなゴツゴツした触感。そのあとにくるほのかな甘み。
コーンでもない、ポテトでもない。 私の知らない味。
これ、 なあに?
車のハンドルを握るQちゃんの口にチップスを入れながら私がきく。
「グレインだよ。 ファイバーが多いんだ」誰もいない淋しい夜道。私達の車がまだらに立つ電灯の下を静かに走っていった。
その夜から私は「彼」の虜になった。
学校返リの車の中、食後のソファーで、時には真夜中の台所で灯を消したまま「彼」を食べた。
いけないことに私は「彼の兄弟」にも手を出してしまった。それも1度だけではなく、 何度も接触を交した。
夢中で「彼ら」をむさぼる私。Qちゃんは「彼ら」に嫉妬をしていたのだろうか。
私から「彼ら」を引き離そうとした。私の両腕に抱かれた「彼」を私の手の届かないアパートのキッチンの棚の上にこっそり隠したりした。
Qちゃんが帰って一人になると私は椅子を持ち出してその上に乗って右腕をできる限り伸ばし「彼」を求めた。
そんな「二人だけのいけない関係」を続けてどのくらい達っただろう。
いつ頃からか、私は「彼(ら)」との二人のランデブーにピリオドを打っていた。
慣れてくるとあのゴツゴツした身体やほのかな甘みが特別なセンセーションではなくなってしまったのだ。
その後私は日本に帰国し、日本に住み、台湾に渡り、「彼ら」を目にすることはなかった。
だがハワイに移住した時、 スーパーで「彼ら」と再会した瞬間、 若し頃の禁断の色(食)欲がフスフスと沸き上がった。
今では「彼ら」との接触は2年に1度くらいになってしまった。
小麦が食べれなくなったQちゃん。 「君一人で『それ』全部食べてもいいよ」と嫉妬心も過去形になっているようだ。
それでも昔のように欲望が沸かなくなった私。落ち着いたのだろうか、 私の「彼ら」に対する色(食)欲は。
君へのプレゼントだよ。 Qちゃんが差し出す。昔は「この味」は存在しなかった。だけれど「彼ら」と同じ系統だ。ゴツゴツした男らしさ、味もシャープなチーズ味で忘れかけていた私の色(食)欲を叩き起こされた。 が、私の色(食)欲はQちゃんだけで充分だ。
晩ご飯:スパイシーポーク
ローストブロッコリー
ポテト
サワークラウト
食欲も色欲もまだまだ健全でありたいものです。