2008年7月14日月曜日

一緒に来るかい。

「朝一番でしなくちゃいけないことがあるんだ。5分もかからないよ。一緒に来るかい」

二人の仕事はお休み。 時計に目をやるとまだ朝9時前だ。 そうだね、Qちゃんの勤務先に行くのもたまにはいいかな。

Qちゃんの勤務先に来たのはこれで3度目かな。 会社の隣にプライベートトレイルがあるから、ここでQちゃんはよく散歩をたしなむようだ。ノースウエストの自然界を覗けるQちゃんの秘密の場所。今日はどんな動物に遭遇できるのかな。私は一人でQちゃんの探検トレイルを歩く。朝からいちゃいちゃ二人っきりでどこに行くのさ、 そこの若い鴨カップル。マーガレットは道端でよく咲いているな。このトレイルでも満開だ。このトレイル、高速道路の隣なんだ。車がブンブン通り過ぎる。左に頭を傾けると鴨の親子が沼の中。スイスイスイ、上手に泳ぐ練習だ。右に頭を傾けるとディスカウントスーパー。えっさえっさ、1週間分の食料をまとめ買い。近代化の波が自然を破壊するまで、どのくらいかかるのかな。チクタク、チクタク。鳥は自然の住家をなくし、私は都会の流れに戸惑うのか。「ごめんよ、かなり時間がかかってしまった」仕事を終えたQちゃんが立っていた。「すこし歩こうか」Qちゃんの声はこのトレイルの涼しげな風のよう。ヌートリアはいたかい? 最近顔を見せないんだ」この沼にすむ悪戯なヌートリア一家。 Qちゃんの散歩友達だ。まだ見てないわ。まだ眠っているんじゃないの?

私は強く生きる雑草が好きだ。変化する自然と一生懸命に共存しているからだ。

Qちゃんに出逢った頃は私はアメリカという大地で勢いよく葉を広げて成長する雑草だった。

Qちゃんはヒラヒラとどこまでも広がる花園を舞う優雅な蝶だったのに、私という雑草の蜜を吸ってしまう。そして私はその蝶をあみで捕まえてしまった。その時から彼の自由と可能性を略奪してしまったのかな。「いたいた! ほら、あれは子供のヌートリアかな」--- Qちゃんは知らない。「そうだ『あいつ』だよ。 この前は陸に上がってきてね、 従業員がくれる餌を食べてたよ」--- 私が戻らない過去を振り返り『後悔』していることを。「かわいいだろう。そう思わないかい」--- もし『あの時』に戻れるなら、 きっと私はある条件をリクエストしている。 --- そしたら私はQちゃんとこうしていただろうか、それともQちゃんを失うことになっていただろうか。

「おっと、 銀行に行かないと。 一緒に来るかい」

銀行口座は二人の名前。 個人小切手を入金。「すみませんが、ついでに新しいステイトクウォターがあれば頂けますか」Qちゃんが集めているステイトクウォター。アパートのどこにしまったっけ。「今はアリゾナ州だ。ハワイ州まではどのくらいかかるかな」ステイトクウォターコレクションになるとまるで子供のようね。 銀行のフリーコーヒーをすすり、ベンチに座る二人。「よし、行くか」ベンチを立つQちゃん。

私はQちゃんの後を歩く、それが昔も今も望ましい。時が許される限りそうして暮らしたい。

あれから網で捕まえた蝶を私という雑草の原っぱに放した。 彼が選択した「環境」は彼が描いていたものと違っただろう。けれど「心」はあの頃と変わることのないヒラヒラと優雅に飛ぶ蝶であってほしい。