2008年7月7日月曜日

愛情ジャム

オレゴンはベリーの産地だ。毎年この季節になると周りでベリー狩りの話題がもちあがる。そして幸福なことに皆さん食べ切れないベリーをおすそわけしてくれるのだ。

としさんは果物が大好物で旬の果物を一早く嗅ぎつけて大量に買い込む。彼女の場合、一人で欲張ってその旬の幸を食べるのではなく人様に分け与えるのだ。それが彼女の習慣のようである。

としさんのランチはいつも健康食で自分の食事を考えさせられる。 そんな健康食なとしさんはいつも私に「ななちゃん、これ食べてみる?」ととしさん手作りの不思議なものを体験させてくれる。

先週久振りにとしさんのランチタイムに遭遇した。としさんはいつものごとく鼻歌をうたいながらニコニコと「これ、私が作った苺ジャム。食べる?」とパンまで差し出して勧めてくれた。

自分のランチでお腹がいっぱいだったのにとしさんのジャムの光沢に魅了され、私はパンを2切れ程食べてしまった。 それだけ美味しかったのだ。

その姿を見たとしさんは「まだ家にたくさんあるから、これもって帰っていいよ」と私にいってくれた。としさんの苺ジャムは大粒でまだ形がクッキリと残っている。 そのため砂糖で煮つめられていてもまろやかな酸味が口の中に広がるのだ。壮大な苺畑をとしさんと一緒に走っているような爽やかな気分にさせてくれるジャムなのだ。家に苺ジャムを持って帰るとベリー好きのQちゃんは嬉しさのため顔をクシャクシャにして喜んだ。そして食いしん坊の私に「これは僕が食べるから、ちゃんと残しておいてくれよ」と何度も念を押した。コクリと頭を下げて「了解」の合図をしたが、あまりのジャムの美味しさに勝てず、昨日Qちゃんが帰宅する前にスプーン1杯の「としさんの愛情」を口にした。

実はとしさんは最初に「苺ジャム」ではなくて「ある野菜ジャム」を私に勧めてくれた。

このジャム。 色が漫画に出てきそうなほどの度派手なピンク色でお世辞にも美味しそうでも健康そうでもない。

期待はしていなかった。

そして「この味」。このジャム、酢っぱいのである。去年としさんがくれた「花梨」のように酸味が鋭いのだ。

フルーツが元々好きではない私とは相性が合わない味なのだ。私は1口で充分だが、フルーツ好きのQちゃんは「この種の味」が好きだと妻の私は直感した。

としさんに名前を聞くと聞いたこともない「野菜の名前」だった。 親切なとしさんはその野菜の姿を口で説明してくれた。 その野菜は緑の葉がもこもこ生えていてその茎らしき赤い部分だけを食べるそうだ。

「Qちゃんなら知ってるから家に帰ったら『この野菜』のことを聞いてごらん」としさんは私に告げた。

憶えの悪い私はその野菜の名前を脳に登録することはできなかったがイメージは描いて家に帰った。

「としさんの苺ジャムを食べるなよ!」と私に命令した後、のんびりとソファーで寛ぎタイムに入ったQちゃんにとしさんに食べさせてもらった度きついピンク色で酸味のある「あの野菜ジャム」の話をした。

「それはルーバーブだ! 食べたのか? 冗談だろ! ルーバーブは僕の大好物! パイにすると旨いんだ!」 と「あのジャム」を食べられなかったことをとても残念がっている。

そんなに気を落とすほど私には特別美味しくなかったけど。顔にしわを寄せるQちゃんを眺めていた。

私とQちゃんが同じ野菜の話をして同時進行しているのか確認をとるのために私はQちゃんに「その野菜」がどんな形をしているのか質問した。

「畑で育てるのは簡単だよ。グリーン系の野菜で、葉っぱが大きく育つんだ。 だけどその葉は毒があるから食べないんだ。 葉の部分を切って赤い茎だけを食べるんだ。 それをジャムにして食べるんだよ。 酸っぱいんだけど、 旨いんだよ」

Qちゃんにパイの話を持ち出すといつもこうなってしまう。 子供のようにハシャギ出すのである。

翌日としさんにQちゃんの反応を報告した。すると、

「じゃ、 残りのジャム、Qちゃんにあげてよ」と「ルーバーブジャム」を親切にもくれたのだった。

仕事から帰ってきたQちゃんにペー君が「パパ、今日はご褒美があるよ」とお出迎え。
「なんだろう」というQちゃんの顔がニヤリとしている。

「おおおッ! ルーバーブジャムじゃないか!」 Qちゃん引出しからスプーンを取り出してとしさん手作りのルーバーブジャムをすくって口の中にほうばった。幸せいっぱいで彼の大きな目がなくなって、無言のまま動かない。Qちゃんは今極楽にいる。

とろんとした目で「はーっ」とため息を吐いた後、Qちゃんはまたスプーンでピンクのジャムをすくって口に入れた。 私が横につっ立っているのにそ知らぬ顔で再び一人で楽園へ行っている様子だ。

昨日の「苺ジャム」のように「僕が食べるから残しておいてくれよ」と私に念を押してQちゃんはシャワーを浴びるためにバスルームへ消えていった。

シャワーの水の音が聞こえると、私は「ルーバーブジャム」を冷蔵庫の後ろの方に置いて、 昨日としさんがくれた「苺ジャム」を取り出した。そして苺ジャムをスプーンですくってQちゃんには内緒で一人極楽へ飛んだ。

晩ご飯:ひよこ豆と豚肉のインドカレー
ミレット
絹さやとモヤシと白菜サラダ
ヨーグルト

としさん、 「苺ジャム」と「ルーバーブジャム」。 口にするたびQちゃんと天国に飛んでます。 いつも「心の幸」をありがとう。