「はい、これ。 ウィッシュボーン」黒猫さんが私に差し出す。
「何だこれ?」これチキンの丸焼きのただの骨じゃないかいな。キョトンとした顔で黒猫さんを見つめた。
「あれ、 ななちゃん、 ウィッシュボーンを知らないの? ほら、 感謝際なんかでウィッシュボーンで願いごとをしたことない?」優しく黒猫さんが聞いてくる。
黒猫さんは子供に教えるようにウィッシュボーン(願かけ骨)のことを説明してくれた。
どうやらチキンやターキをご馳走にする時に家族で楽しむアメリカの習慣らしい。
そんな話も経験もしたことがない。
「じゃ、今日家に帰ったらQちゃんにウィッシュボーンのことを聞いてごらん。 知ってるはずよ。それから二人で願いごとをするのよ」
黒猫さんに「宿題」をもらって少し嬉しかった。
家に帰り、 帰宅してリラックスしているQちゃんに宿題の協力をしてもらうことにした。
「ねえ、 Qちゃん。これ知ってる? 」ティッシュに包んであったウィッシュボーンをQちゃんに差し出した。「ウィッシュボーンだろ?」そっけない反応のQちゃん。アメリカ人のQちゃんは「ウィッシュボーンの習慣」を矢張り知っているようだ。だけれど今まで二人の間にウィッシュボーンの話題が上がったことはない。
「で、 この骨をどうするの?」黒猫さんが教えてくれたように「Qちゃんもするのかどうか」試してみる。「二人で骨を持つんだよ。 ななはそっちの骨を持ってごらん 」「そして心の中で『お願い』をするんだ」
二人は「お願い」をする。
「準備はいいかい? さあ、骨をひっぱるんだ!ワン、ツー、スリー!」
Qちゃんの合図で二人は互いに骨を引っ張った。「長い骨を握った者の願いが叶んだ」「今回はななの願いが叶えられるみたいだな」隣でQちゃんが囁いた。
Qちゃんは「宿題を一緒に済ませてやったぞ」といわんばかりにソファに足を伸ばして昨日収録したNBAを堂々と見ている。
「ねえ、Qちゃん。私が何をお願いしたか教えてあげようか?」
そう自分からいわないとQちゃんは聞こうともしないだろう。 QちゃんがNBAを見ている時はいつも私と別世界にいる。
「何をお願いしたんだ、ハニーちゃんは?」社交辞令のようにQちゃんが聞く。
「これからも心和やかにQちゃんと一緒に感謝して暮らしていけますように」Qちゃん、ちょっぴり嬉しそう。
大切なQちゃんにいつまでも晩ご飯を作ってあげたい。40歳になっても、50歳になっても、60歳になっても。私が元気なうちはいつまでも晩ご飯係は私の仕事です。ベイクドポーク&コーントルティーア
スウィートピー
紫キャベツのサワークラウト
茹で卵
「Qちゃんは何をお願いしたの?」晩ご飯をディッシュアップしながら私が聞く。
「僕の願いが叶いますように(僕の骨の方が長く引き裂かれますように)」それじゃ、 ロマンスのある「願い」じゃないじゃない!