アパートの中を見渡すとあらららららっ。人から頂いた観用植物がわんさか増えていた。
元気パワーをくれるプランツ君や生活がしやすい家具用品。 親切なオレゴニアンさんが少しずつ揃えてくれたお蔭で2年前は殺風景だったこのアパートも家らしくなった。
私は「自分に合っていないもの」を側においておくと落ち着かない。
例えば赤いリボンをしている毛のフカフカしたマルチーズ犬が側にいると不自然に感じる。毛が短くてすこし汚れた頭の悪そうな雑種を連れている方が私らしくて安心する。
要するに自分のセルフイメージが低いのだ。
仕合わせさんがくれたモンテラスがこのアパートにはあまりにも素晴らし過ぎて狼狽してしまう。
そこで私は根分けをしていつもお世話になっているオレゴニアンに元気なモンテラス君を養子に出すことにした。
皆さん喜んでくれたので私もほっと一安心だった。
しかし、ほっとしたのも束の間。
根分けをしたのはいいが、仕合わせさんがくれたあんなに素敵で優雅なモンテラス。
欲張りといわれようが全てを手放すことはできない。私は自分で管理できるぶんを自分の部屋に残しておいた。
「来週のオフの日にアパートのモンテラスを大きな鉢植えに植え替えをしよう」
その言葉を何度も何度も自分の胸内で繰り返し事を運ばないままついに1ヵ月以上が過ぎた。
先先週のオフの朝「今日こそは『モンテラス企画』を実行するんだ!」と出勤前のQちゃんに胸をはって私は宣言した。 だがそのオフの日は丸1日中だらだらと過ごした。
今週になって部屋のモンテラスが哀しそうに私を見つめているような気がしてならない。
歩いて10分もしないホームセンターでパーライトを買ってくればすむことなのだ。なのに「今日は寒いから」とアパートで丸くなっている。
「ななちゃんのモンテラスプロジェクトはどうなった?」ある夜Qちゃんが秋夜のコウロギのような声でソファーで雑誌を読んでいる私にそっと聞いてきた。
別にQちゃんは咎めているわけではないが自分に非があるという後ろめたさがある私には『あのモンテラスの葉はだんだん枯れてきているよ。 ななはレイジーだな。いつになったら処理をするんだい?』といわれているようにきこえる。
すると自分でも驚く程の言い訳がましい「でなくてもいい攻撃」に出ていた。
「このモンテラスは大きくて重いからどうしても横に広がるの。だから上に伸びるようにしっかりとした支え棒が必要なの。それがない限り企画は実行したくてもできないの。Qちゃんが車で買物に連れていってくれれば都合がいいんだけど」
もともとQちゃんは喧嘩ごしではなかったせいか私の攻撃をあっさりと交した。
「それなら僕が調達してあげるよ。いいアイデアがあるんだ」Qちゃんはそういってその夜寝室に消えた。先週のことだ。
モンテラスは誰にも(誰にもっていうけど私だけじゃないか!)世話をされないまま狭い鉢植えで辛抱強く座っていた。
先日甥のモエリカのアメフト試合の応援に行ったQちゃん。
家に帰って来るなり「悪い知らせと良い知らせがあるんだ。どっちから聞きたい」と息を切らして私にきいてきた。
私は嫌いなものを最初に食べて好きなものを最後まで残しておくタイプだ。悪い知らせから聞くことにした。
「デジカメの鞄を首から下げてタカンガと芝生で相撲をしていた僕が馬鹿だった。予備の電池をグランドに落としてなくしてしまったんだ。 捜したんだけど見つからなかったんだ。ごめんよ。家にはもう予備の電池はないよね?」
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私が失くした電池をすんなりと諦めたので胸を撫で下ろしたのかQちゃんは「ちょっと待っててね」と軽い足取りでアパートを出て行った。
どうも「良い知らせ」はタイミングが来るまで温和しく車の中で待機しているようだ。
Qちゃんが息を切らせながらアスファルトのアパートの階段を登ってくる。
そのリズミカルな足音からQちゃんはかなり上機嫌のようだ。本当に「良い知らせ」を連れてきたのだろうか。 少し期待で胸が膨らむ。
なにやら玄関の外でザワザワと音がしている。
どうやらQちゃんと「良い知らせ」はドアの向うで互いに手間取っているようだ。
なにをしているのだろう。ドアの向うで二人はゴソゴソ、ガサガサと音を立てている。
ここで「大丈夫?」と優しく声を掛けてドアを開けてあげればいいのだが、Qちゃんを救助するかわりに私は自分の用足しに行った。自分の体の欲求を優先した。
スッキリしてバスルームから出てくると「良い知らせ」が我物のような顔で人の家の床に寝そべっていた。なんとも図々しい客である。
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じゃなければ渋滞ラッシュの高速道路を「こんな図体のでかい奴」と一緒に狭い車でポートランドからアパートまで運転してくるわけがない。
運転席のQちゃんにモッサモッサと笹がチョツカイを掛けている。そしてQちゃんはその手を何度も押し避けている。
そんな所を想像すると「あんまり嬉しくない」とはQちゃんにいえない。
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その夜「歓迎されない客」は大胆にも裸のままリビングで眠ったようだ。
翌朝目を覚ました。暗闇のリビングで足元に触れるものがあった。 ぎょっとした!あの歓迎されない客だ!
電気をつけるとまるで二日酔でぐったりしているような姿で横になっている。酒のかわりに懐かしい笹寿司の乾いた笹の匂いをほのかに漂わせている。
その日私は意識のない客をそのまま床に放置して仕事に出掛けた。Qちゃんが彼女の看病をしてくれることを願ってそのままにして置いた。
Qちゃんも私もこの歓迎されない客を放置したまま2日が過ぎた。言葉を交さないがお互いに「相手が処理をしてくれる」と思っているのだ。
通常私の方がQちゃんより早く帰宅する。
家に帰ってきて目の前にこのぐったりした竹が倒れていたらどんなに怠け者の私でも「どっこいしょ」と気合を入れて「何らかの行動」に出るだろう。
私はジャケットをはおって$10を握りしめてホームセンターに出向いた。そしてパーライトを肩に背負って家に帰ってきた。
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Qちゃんの連れてきた「歓迎されない客」も笹を切りとってあげたらさっぱりしたじゃないの。
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ここまでするとどっと疲れた。普段ゴロゴロリンと怠けているせいだ。 Qちゃんが帰ってくるまで時間があるな。 今日は何を作ろうか。
晩ご飯:
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萌しと若芽のナムル
玄米
揚げの味噌汁
さっぱりした和食が食べたいのはどうしてだ。 秋だから? シンプルで素早くできる晩ご飯。 今日もありがとう、 明日もありがとう。