帰化面接が終リ家に帰るとどっと疲れが出た。私はベットに身を静めた。
どのくらい眠っていたのだろう。
リンリンと電話が鳴る。
Qちゃんが日本語で話している。誰だろう。
「そうそう。 あ、今、 ななちゃん、寝ている。 だけど大丈夫。はい、ちょっと待って」
受話器を手で押えながら小声で「チッヒロからだよ。 話すかい?」と私にQちゃんがいう。
もちろんよ。
そう答えてベットの上に体を起こし枕を壁に押し付けてそれに背をもたせた。
「あら、眠っていたのね。 今、お話をしても大丈夫?」千寛ちゃんの透き通るような声が受話器から聞こえる。
帰化面接から帰ってきたことを報告する。
「あら、そういえばブログにそんなことを書いていたわね。ということはもう国籍は日本人ではなくなるってことなの?」
姉はいつもこんな調子だ。 必要な時以外には妹のことにあまり深く突っ込まない。それが彼女の私への優しさなのかもしれない。
父のことや母のこと。
私はアメリカに居るだけに「聞こえないもの」がある。それは父や母や姉達の優しさで私には敢えて「聞かせてない」のだろう。
アメリカに飛んで足元がふらふらしている妹だ。そんな妹に日本の親の話をしてもどうにもならないと思うのが姉達の本音のところではないだろうか。
そう思われても仕方がない。
だが千寛ちゃんの口からはアメリカに逃避した私を責める言葉は一言も出てこない。
千寛ちゃんを見ていると私は両親に恩を返すことが何もできない無責任な娘だと思う。
人はなぜ子供を産んで育てるのだろうか。
私のように日本国籍を放棄した娘を育てるためだったのか。父や母は胸を痛めているのかもしれない。
いっそのことそう言って責めてくれた方がよかったのかもしれない。家族の優しさが心にチクチクと染みる。
ごめんね、おねいちゃん。
私が日本にいたら「家族の問題」を姉妹3人で抱えて精神的負担も軽くなるのに。
だけどもう私にはできそうにありません。世間帯を繕う為に嘘を並べることのできない不器用な妹を許して下さい。
いい加減な妹だと鼻で笑って下さい。その方が自分を責めなくて済むからいいんです。
月曜日に本当に法的にアメリカ人になってしまいます。心の中で整理をするまでまだ時間がかかりそうです。
もう頼るのは自分一人です。帰るところもありません。
最後の妹の言葉です。
おねいちゃん、家族の為に何もできない妹を許して下さい。 そして日本での妹を忘れて下さい。 日本での私はもう存在しません。これからはアメリカで生きていきます。